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社長就任とあの人の秘密 PAGE4

last update Last Updated: 2025-10-08 10:59:19

 ――社長就任の記者会見当日。今日は梅雨の晴れ間らしく、朝からよく晴れていて暑い。

 でもわたしはビシッとグレーのスーツで決め(でもブラウスは胸元に大きなリボンがあしらわれたフェミニンなものを選んだ)、江藤さんの運転する黒塗りの高級セダンで颯爽さっそうと出社した。

 自慢のサラサラのロングヘアーはバレッタでハーフアップにして、少し華やかめのメイクもした。就任会見はテレビやネットなどで中継もされるため、多少はテレビ映りを気にしているわけである。

「――では社長、いよいよでございますね。行ってらっしゃいませ」

 本社ビルのエントランス前でクルマを降りる時、江藤さんに「社長」と呼ばれたわたしは何だかむずがゆい気持ちになるのと同時に、やっと「わたしが今日から社長なんだ」という実感がこみ上げてきた。

「ありがとう、江藤さん、行ってきます!」

 嬉しさと少しの不安が入り混じった気持ちで、わたしは彼にうなずいて見せた。

「――萌絵、平本くん、おはよう!」

「あ、佑香……じゃなかった。社長。おはようございます」

 エントランスをくぐり、さっそく出社してきた友人たちに挨拶すると、萌絵が急にかしこまってわたしに挨拶を返してきた。

「萌絵、そんな急に態度変えないで。なんか淋しいから今までどおりでいいよ」

「そうだよ、田口。急に態度変えたら佑香が混乱しちまうじゃんか。――うっす、佑香」

 わたしが困惑していると、平本くんが萌絵をたしなめてから今まで通りの軽い調子で挨拶してくれた。一人だけでも態度を変えないでいてくれる人がいると、何だか安心する。それが気心の知れた友だちならなおさらだ。

「あー……、そっか。ゴメン。じゃあ改めて……佑香、おはよ。今日から社長だね。頑張って」

「うん、頑張るよ。二人とはこれからもずっと友だちだよ。帰りにも時々は一緒にゴハン食べたり、飲みに行ったりしようね」

「いいねぇ。そん時は佑香、お前のおごりでな」

「えー? なんでそうなるのよ」

「なーんてな、冗談に決まってんだろ。もちろん今までどおり割り勘でな」

「それがいいよね。あと、三人で社食でランチも。佑香に会食の予定とかない時にね」

「うん。秘書の野島さんにそう言っとくわ」

 社長になっても変わらない、この三人でのワチャワチャした関係が心地ここちいい。

 ――と、少し向こうにわたしに向かって|
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